【Liquid Democracy】インターネットコンピューターに実装されている液体民主主義のメリット

インターネットコンピューターのガバナンスシステムはちょっと変わっていますよね。直接投票するだけでなく別の人に投票権を移譲することができます。

このガバナンスの仕組みを液体民主主義というのですが、なぜインターネットコンピューターは一風変わった投票の仕組みを採用したのでしょうか。

  • 液体民主主義とはなんなのか
  • 液体民主主義のメリットはなにか

についてこの記事では紹介していきます。

インターネットコンピューターに実装されている液体民主主義

民主主義というとちょっとお堅いですけれども、要は集団の意思決定の方法です。インターネットコンピューターではこの意思決定する方法を使って、「つぎに強化する機能はは何にする?」のような議題を決めていっていて、「ビットコインと連携できる機能を作ろう!とか「次はイーサリアムと連携させていこう」とガバナンスに参加した人々が投票するので、民主主義的な決め方をしていると言えます。

投票というと 政治のイメージが強いですが、別に政治以外にも使っていいわけです。

【Liquid Democracy】液体民主主義とは

液体民主主義の簡単な図
  • 直接民主主義 + 代表制民主主義 = 液体民主主義

例えば、「消費税を50%にします」という議題があったとき、液体民主主義では賛成/反対に直に投票することもできますし、代表者を選んで、自らの投票権を渡すことで代わりに票してもらうこともできます。

  • 直接投票できる → 直接民主主義
  • 代表を選ぶ → 代表制民主主義

液体民主主義は二つの民主主義の合わせ技ですね。

「液体」って何よ?

と疑問に思うかもしれません。液体はたぶん直訳なんじゃないかと。柔軟なくらいの意味でとらえるのがまずはいいと思います。

自分で投票するもよし、誰かに任せるもよし。柔軟ですね。

液体民主主義のメリット

液体民主主義は直接民主と代表制民主のいいとこどりをします。

  • 直接民主主義と同じく自分の意見を直接投票できる
  • 提案に合わせて代表者を選ぶことができる

自らの意見を反映しやすくし、わからないところはプロにお任せできる仕組み。このメリットはこれまでの民主主義のデメリットをみるとより際立ちますので、ちょっと掘り下げてみます。

これまでの民主主義の課題

民主主義は自らが投票し、意思決定に参加する直接民主主義と代理人を選んで、代理人が意思決定に参加する代表制民主主義の二つがあります。

直接民主制の課題

歴史上最初に登場した民主主義が直接民主主義です。全員の意思が直接反映するというと聞こえがいいですけれども、課題はあります。

合意形成の難しさ

一つ目は合意形成の難しさです。数人ならすぐに決まることが、数十人、数百人、数万人と増えるごとに時間がかかかる問題です。例えば、昼休憩のランチの行き先を3人の友達あるいは同僚でとるときに、一分もかからず、行き先に合意できるでしょう。それぞれ食べたいものをカレー、中華、イタリアンなどと候補を出して、票が割れたらそれぞれの主張と妥協点を話し合えばすぐにきまります。

しかし、100人なら?1000人なら?あるいは1億人なら?

途方もない時間がかかります。ただ、近年ではITを使うことで意思表示だけなら一瞬で可能になりました。

専門性の欠如

つぎに知識不足の問題です。集団の意思を決定したくなる提案というのは、個人では解決できない大きな、あるいは難しい問題であることがあります。つまり高度な知識が必要となる場面があるということです。

  • コロナ禍の個人給付金はいくらが妥当?
  • 小学生でプログラミングを必修にするが、代わりに何を外す?
  • 2030年までに作るべき高速道路はどの区画が効果的?

たとえば、上記のような問題解決を投票で決めることになったとしたら、どうでしょうか。

判断するには、少なくとも経済、教育、インフラの知識が必要になります。

一部の天才・圧倒的な努力ができる人たちならばあるいは・・・とも思いますが、投票に参加するひと全員が天才ということは考えにくいので、現実的ではありません。

人類全体(コミュニティ)の持つ知識量 > ひとりが一生涯かけて取得できる知識量

すべての分野で専門家になることは、人の一生では時間が足りないので、土台無理な話です。

代表制民主主義の課題

直接民主主義には問題がでてきたので、次に代表制民主主義が考案されます。現在の日本で採用されているのは、この代表制ですね。まず最初に代表者を選ぶ投票があり、選ばれた代表者が実際に意思決定に関わる投票をします。

これにより直接民主主義で問題となった、「大人数での合意形成の難しさ」を人数を減らすことで対応し、専門性をもつ代表を選ぶことで複雑な問題にも対処できるようになりました。

が、代わりに代表者を選ばないと意思表示ができなくなり、いくつか別の問題が生じました。

100%意見が一致する代表者はいない

まず一つ目、100%意見が一致する代表者がいない可能性があります。とくに先の例で経済教育インフラを出しましたが、例えば経済と教育の分野で意見は一致しているけれどもインフラでは一致していないなど十分あり得ます。

自分の意見に100%一致するのは自分だけです。代表者という仕組みはどうしても自分の声が伝わりきらない可能性があります。

代表者がマニフェストを守らない/守れない

代表者が自分の意思の代弁者でなくなったとき、別の代表者を選ぶことができます。ただし、代表制の場合は時間がかかることがあります。というのも仕組みとして、任期を設けているためですね。大きな改革を進めるには長い時間が必要になることもあるので重要な仕組みである一方で、代表になった人物は任期期間中まったく別のことをしても資格を剝奪されないデメリットの側面もあります。

例えば「マニフェストを守らない」人でも任期が終了するまでは代表者として、活動し続けます。行動した結果守れなかったのであれば、ましだとは思いますが、汚職等で自らの利益を優先し守らなかった場合はダメージが大です。

守れない人が代表で居続ける仕組みが問題ですね。

液体民主主義は提案に対して柔軟に意見を表明できる

それでは改めて、液体民主主義のメリットを見てみましょう。

  • 直接民主主義と同じく自分の意見を直接投票できる
  • 提案に合わせて代表者を選ぶことができる

まず、知識が十分にある場合、代表制民主主義では出来なかった投票権の直接行使ができます。

代表も選べるし自分でも投票できる

また、自分の専門外の提案の場合は、代表制民主主義同様に、代表を選ぶことができます。しかも、選び方がより柔軟になり、提案ごとに代表者を選ぶことができるようになり、自分の意見を代表制よりも反映しやすくなります。

投票ごとに代表者を変えることも可能
すぐに代表者を変更できる

それに代表が気に入らなくなれば、いつでも別の人を指名することができるので、代表制民主主義で問題になっていた「マニフェストを守らない」を解決します。信頼できない人は一時、投票権を集めることができたとしても、すぐに投票権ははがされて、影響力が無くなります。「汚職」を防ぐことが可能です。

液体民主主義のデメリット

液体民主主義のデメリットとして考えられるのは権力の集中化です。既存の民主主義よりも独裁的になることが容易と言われています。ただ、独裁的になったとしても、それが集団の総意ならばそれはそれでいいのかも。いつでも権限を引きはがせますし。

なお、その他のデメリットは、まだ事例がすくないからか、あまり出てきていません。おそらく実用されるにつれてでてくるのでしょう。

インターネットコンピューターでの液体民主主義の実装

では、インターネットコンピューターで実装されている液体民主主義についてみていきましょう。投票権はニューロンと呼ばれる単位で管理されます。

投票権は一人一票じゃない

投票権は株式に似る

これまで民主主義という言葉から政治的な例を出してきましたが、インターネットコンピューターはブロックチェーンによるクラウドサービスの提供なので政治よりも企業統治を行うための株式のほうがイメージが近いです。

まず投票権は一人一票ではなく、ニューロンにあるガバナンス・トークンであるICPの保持量が影響します。1 ICPで1 投票権、100 ICPなら100倍の投票権を持つことになります。株式の議決権と一緒ですね。

貢献期間で投票力が上がる

貢献期間とはインターネットコンピューターのガバナンスにどれだけの期間参加していたかです。この貢献期間が長い(最大4年)と投票権に補正がかかり権利を増やすことができます。

リスクで投票力を上げる            

そして特徴的な点がリスクを取ると投票権を増やすことができることです。インターネットコンピューターの液体民主主義ガバナンスに参加するにはガバナンストークンを最低でも半年はロックしなければなりません。この期間はガバナンストークンのを自由に動かしたり・売却ができなくなります。結構リスクありますよね。そしてロック期間は最大8年まで延ばすことができます。さらなるリスクをとることで投票権を増加させることができます

組織単位でもガバナンスに参加できる

投票権というと個人に紐づく印象が強いですけれども、投票権はICPをロックすれば可能になるので、個人でも組織でもインターネットコンピューターのガバナンスに参加ができます。

実際、創設したDfinityやコミュニティのニューロンがあり、代表者として選ぶことが可能です。

インセンティブによる投票参加を促進

また、インターネットコンピューターのガバナンスに積極的に参加するように促す仕組みがあります。インセンティブです。

実際の政治では投票に行かないなんて問題も起きたりしますが、インターネットコンピューターでは投票をするとICPがもらえます。このICPをさらにニューロンに追加することでさらに投票力を上げることも可能です。

このような、インセンティブの設計はブロックチェーンらしい特徴ですね。

>>関連:ブロックチェーンにお金が常に絡んでくる話

まとめ

それでは最後に内容を振り返ります。

  • 直接民主主義 + 代表制民主主義 = 液体民主主義
  • 有権者の意見を素早く、柔軟に反映できる

まだインターネットコンピューターのガバナンスに参加している人数は数万人程度です。これから人数が増えていけばより提案数も増えていくと思うので、目が離せません。